私たちの被ばく病気経験、権力の大虐殺政策、東日本の今と避難の呼びかけ:前編

これは今年一番力を入れた、また勇気を使った呼びかけです。

 僕は2002年から東京で社会運動を続けてきた、35歳の者です。2015年に心臓の不整脈で何回も倒れ込み、放射能の影響だと思い、生まれ育った東京から昨年末に大阪へ避難しました。関西で「Go West, Come West!!! 3.11関東からの避難者たち」という集まりを避難者たちと立ち上げ、活動しています。http://www.gowest-comewest.net/

 僕がこれから描くのは、3.11東電福島原発事故放射能によって、人々がどのようにむごたらしく大規模に殺されていくかを、自分と友人の体験を元にした「未来予測」です。それがこのまま隠され続けたら、私たちと日本社会がどのようになるのかを考えることです。それは関東・東北に住む仲間である皆さん自身に起こることです。自分たちの人生を「逆算」してどうしていくかを一緒に考えて行動することが、まず何より大事な友人であるみなさんを守ることであり、今最も必要な「運動」でもあるからです。

その結論は、「東日本からの総撤退、集団移住。私たち避難者は原発=核=現在の世界構造を変える生き証人になること。最後に残る『収束作業を誰がやるのか』という問題は、まず全ての事故責任者から最初にやらせること。」です。ですがその結論に今は異議や困難を感じる人も、どうか最後まで読んで欲しい。今最も必要な作業が、最も放棄されているからです。未来へ生きるために、現実の全体を捉えよう。

(※この作業は、ほんらい人文社会科学と自然科学と表現者の力を交差させて総力で行うべきことであり、それを放棄している日本の学問やアーティスト、とりわけ自分が大学で学んでいた社会学を強く批判します。「復興がんばろう」「食べて応援」などの「ことばとイメージ」が、私たちをどのように騙しているかを分析・批判するのが社会学の役目なのです。今からでも着手せよ。)

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1:今後数十年間の東日本の被ばくで「殺される」のは、最低でも一千万人以上。数十人に一人に及ぶ。

 日本政府と、IAEAなどの原発推進の国際勢力は、東電事故を全力で隠蔽しています。私たち住民を避難させないようにしています。「自主避難者は自己責任」発言は、国の「復興政策」の基本方針なのです。まずこれが最大の問題であり、変えるべきことです。

 そして彼らが何もやらないだけでなく、反原発運動に参加するような人も含めて、なぜみんなが東日本に残っているのか。これが今一番みんなで考えたいことです。僕も昨年末まで残っていたので、よくわかります。
1:これほどの被ばくは初体験なので、知識も薄いしどうしたら良いかわからない。
2:大変すぎて、考えたくないし、考えられなくなる。
3:国の6年間の隠蔽政策がかなり成功し、避難者も黙らされている。そのため東日本の住民が棄民政策をやられていることがわかりにくいし、棄民政策を直にされてきた避難者と住民が切り離されている。
4:避難したくても今の仕事や活動をやめられないし、家も手放せないし、慣れない場所は余計に不安だ。
5:親の介護、友人、仲間、恋人などが東にいるから、離れられない。

 1、2、3は現実をどう認識するかという問題であり、4と5は実際にどうするかという問題です。まず認識を改めることが必要で、その上で現実の諸課題を一緒に解決したいのです。

 そこで、まず「1」の基本事実を確認します。3.11東電福島原発事故は世界初の4基連続の過酷事故、半永久的に続く事故です。つまり人類史上未曾有の事態であり、空前の環境破壊と死者を出します。この凄まじさを世界と私たちが忘れかけている理由は、想像を絶する事態であること、放射能が目に見えないこと、国際社会と日本政府の隠蔽と責任逃れが凄まじいことです。

 次に死者数を大まかに述べます。1986年にチェルノブイリ原発1機が爆発し、やがて収束した事故では、ロシア・ベラルーシウクライナが広範囲に「放射線管理区域」並みに汚染され、人が住んではいけない場所になりました。そしてこの30年間でおよそ100万人の住民と被ばく労働者ががん、心臓病、白血病脳出血などで死にました。この範囲と汚染はまず東日本の全域に当てはまります。汚染地帯の住民は、日本は巨大な東京圏が含まれるために、チェルノブイリの十倍以上の約5500万人に上ります。つまり今後30年間に一千万人以上が被ばくで殺されるのです。しかも東電事故は4基連続で、放射能も出続けているため、さらに大きな被害になるのは確実です。

 「市民と科学者の内部被ばく研究会」の渡辺悦司さんも、ここ数年の東京の放射線量を元に、「東京圏の住民の致死リスクは、毎年でおよそ9万人、50年間では260万人。人口4.5倍の関東圏全体の致死リスクは毎年およそ40万人、50年間では1200万人となるのだ」と明確に計算しています。
http://www.gowest-comewest.net/higai/watanabe20170326.html しかしこの数字も、事故直後、2011年3月15日などの高濃度初期被ばくや、今回の浪江町の山火事汚染は抜きにしています。初期被ばくは私たち避難者の多くも浴びているし、山火事は最も汚染を拡大する「第二の3.15」です。死者数はさらに多くなるでしょう。

 東日本は、最低でも、毎年100人に一人が殺されます。最も大事なことは、天災や事故や寿命で「死ぬ」のではなく、国・東電が起こした爆発と、避難させない棄民政策により、「殺される」のだと確認することです。被ばくを強いられる私たちは今後、誰もが「天寿を全うして死ぬ」のではなく「殺される」のです。

 僕は35年東京にいて、運動していたため、数多くの友人知人がいます。FBの関東友達は800人くらい、FBしてない人も入れれば二千人以上はいる。そのうち毎年20人以上は殺されます。しかも「若くして/突然に/周りに分からずに」です。末期大腸がんで苦しみ続ける松平耕一君が代表で、彼は発信してくれるから分かる。しかし多くの人はそんな発信もできずに消えている、すでに今も。僕にはそのことが見えるし、元々「汚染されている」という状況は外からの方がよく見えます。東日本はこれから真の地獄になります。第二のホロコーストです。だからはっきり汚染と避難を呼びかけているし、移住者の支援を始めたのです。
 
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2:3.11 被ばくで倒れるとはどういうことか

 僕が最もリアルに語れるのは、「大変すぎて、考えたくないし、考えられなくなる」の理由とその先にあるもの、つまり関東東北の今とこれからです。昨年東京で心臓病で倒れて苦しんだ自分は、未来を先取りしてしまった面があるからです。ざっと振り返ると、僕は3.11直後に「首都圏は恐怖心と計画停電で、家から出られずに『収束を祈るしかない』状態にさせられてる。米軍と自衛隊が収束作業=メディアを埋め尽くし、菅首相ACジャパンのCMが『国民の団結』を訴えてる。作業員が特攻隊員のように英雄視され、自粛ムードが広がって集会も中止になってる。これは全て戦中の日本と一緒だ。今、事故の責任者は政府と東電だ!と名指しをしなければ、本当に何も出来なくさせられる」と思ったので、仲間と東電へ抗議行動を始めた。3月18日のことだ。
http://d.hatena.ne.jp/Ryota1981/20110321/1300649351

そこから反原発デモ東電抗議が広がった。それを全力でやり続けたが、それは次第に「被ばく地福島の支援と連帯」か「再稼働反対」がメインになった。「関東も、自分も被ばく当事者だ」という意識はみんな薄く、そう思った人は避難した。デモがあまりに忙しく、深く考える余裕がなく、自分らが大規模被ばくするという初の事態は想像も絶した。それでも僕は「福島集団疎開裁判の会=脱被ばく実現ネット」に関わり続けたため、東京の中では被ばく問題を考え続けた方だ。その蓄積は大きい。

 とはいえ、福島と沖縄を始め安倍政権のあらゆる暴政を止めたかった。全ての政府機関は東京に集中する。だから喜びも苦しみもある運動を続けていた。だが2015年7月、支援に行っていた沖縄辺野古で倒れた。苦しみながら何とか帰京し、10日間入院した。心臓の脈が3回に一回ほど欠ける不整脈「徐脈」だった。それがリラックスした時=寝る直前や寝ている時に毎日出る持病だと診断されたのだ。前から疲れ切った時に貧血のように倒れ込むことが多かった理由が分かった。チェルノブイリで心臓病が一番多かったのは知っていたので、被ばくの影響があると思った。ただ何よりも、直前の5月の「経産省前弾圧」で、「逮捕された園が悪い。自己責任」という攻撃と分断が周囲やネットから起こったことのストレスが大きいと思った。それも間違いなく理由だ。まとめ:http://d.hatena.ne.jp/Ryota1981/20170605

 だが翌16年の1〜3月、昼間起きている時も不整脈が頻発した。すると本当に立っていられなくなる。デモや会議の後に何回も倒れ、仲間に車いすやタクシーで自宅に連れて帰られたりした。「見ていて死ぬかと思った」と言われたし、自分もそう思った。週末はほとんど寝込んで、心底苦しんだ。生まれ故郷だから悩みに悩んだ末に、東京からの避難を決意した。当時の相方が住む場所へ行こうとしたが、3月に相方の目の前でも2回倒れてしまった。それをきっかけに関係が破たんしたため、「人民新聞」の仕事があり、知人が多かった大阪へ避難したのだった(このように、被ばくの病気によって人間関係が破たんすることも、今後増えると思っている)。 

 医者には「もっと悪くなればペースメーカーを入れるよ」と言われた。僕は病気をほとんどせずに行動や発信を続けていたため、ショックは大きかった。しかも手首を触ればすぐ脈欠けが分かるため、測りすぎてノイローゼ気味になった。「命」について、短期間に凝縮して心底考えさせられたし、「冗談じゃ無い、この年でペースメーカーを入れてたまるか、殺されてたまるか」と思った。

 だからこそ、3.11被ばく被害を考えぬきました。被ばくはがんや心臓病などの大病を潜伏させ、しかも進行を早めるため、「気づいたときには手遅れ」が増えます。さらに人は倒れたら当然だが家や病院から出られなくなります。行動も発信もできなくなります。しかも「病気は被ばくのせいだ」という社会的合意が抑え込まれているため、本人も周りもそれに気づけないし、分かっても訴えることができません。そうして病者からまず周りに知られず消えていきます。だからみんなが「今の病気は被ばくのせいだ」とも「これから被ばくで病気になる」とも思えなくなるのです。国・東電はそれを全て分かっているから、避難を止めて後は放置しておくだけで被害者は死んでくれます。全滅のスパイラルです。

 被ばくはまず甲状腺がんのような特定臓器の疾患を起こし、莫大な死者を出します。凄惨ですが、わかりやすい面もある。僕はズキューンと心臓に来たので、危機感を持って避難を決断できました。子どもの病気に衝撃を受けてすぐ避難した多くの母親と同じです。それは幸運でもあったと思います。しかし、被ばくは免疫力を下げる「総合的な老化現象」でもあるため、多くの人は持病や風邪やうつをだんだん悪くしていきます。だからその状態に慣らされるし、通常時との区別も付きにくく、決断もしにくくなります。

 しかも、被ばくは神経系も壊します。自分の健康状態や取り巻く社会状況を考える「知力」や、動いて避難しようとする「気力」も奪っていきます。どんどん頭と心と身体がぼんやり・もうろうとしてくる。これが真に恐ろしいことです。汚染地帯=東日本では、広島・長崎の原爆の「ブラブラ病」が全社会に広がります。自分と社会の放射能汚染、隠蔽、健康被害について向き合い動くことができなくなるのです。これまでのどの公害事件よりも!時間が経てば経つほど!こうして、あまりにもむごたらしい形でこれから一千万人以上が「殺されていく」のです。 

 チェルノブイリ事故では5年目から健康被害が激増しました。そうして5年目の去年から30〜40代の友人知人に話を聞けば、末期大腸がん、膵臓がん、胆管がん、白血病甲状腺異常、逆流食道炎、化学物質過敏症などで日常生活を送れなくなる人が激増していました。だからまずはそうした仲間と4月に『福島原発事故による健康被害者の会』を作りました。健康被害の存在と「被曝のせいだ」という声を上げることが必要だと思いました。スタート集会と健康被害の事例:https://radiationdamage311.wordpress.com/2016/04/15/%e5%a0%b1%e5%91%8a%ef%bc%9a%e6%94%be%e5%b0%84%e8%83%bd%e8%a2%ab%e5%ae%b3%e3%80%8d%e9%96%8b%e5%82%ac%ef%bc%81%e9%96%a2%e6%9d%b1%e3%81%8b%e3%82%89%e3%82%82%e8%a2%ab%e5%ae%b3%e8%80%85%e3%81%8c%e3%81%a4/

 その上で、僕はやはりこのまま残り続けたらただ殺されることになる、避難して闘っていこうと思い、相談や苦悩の上で、昨年末に大阪への避難をしました。

 東日本の住民は、大地震原発事故を身をもって経験しています。心から忘れることはありません。この空前の凄惨な未来をどこかで感じているからこそ、考えずに日常に戻る「正常性バイアス」となります。目の前の仕事や活動にのめりこみ、それを理由に動かない、動けなくなるのです。

 これが、何かの差別ではなく、自分も体験した事実です。この状況を変えて、避難をしましょう。後編で「3」の政府の復興政策6年を検証し、徹底批判します。そして4、5の具体策を考え、提案します。

6月23〜25日に東京に行きます。24日、この集会に参加します。会って話しましょう。
★脱被ばく実現ネットからのお知らせ★ 学習会
  「被ばく被害、そして その先にあるもの」講師 山田國廣氏
日時:6月24日(土) 13時開場(13:30〜16:30)
場所:光塾(渋谷)
詳細→ http://fb.me/13IFeQSLo

他の時間も空いてます。まずは何よりも東日本で話し合い考える場が必要です。会ってこれからを話しましょう!(後編に続く)

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3:政府の隠蔽と私たちの諦めの正体――それは変えられる

 東日本の住民は、大地震原発事故を身をもって経験しています。心から忘れることはありません。前編で描いた空前の凄惨な未来をどこかで感じているからこそ、考えずに日常に戻る「正常性バイアス」となります。目の前の仕事や活動にのめりこみ、それを理由に動かない。動けない。どんどん具合が悪くなり、ますます動けなくなる状態です。

 それゆえに、日本政府の隠蔽=「福島復興政策」はほとんど批判をされずに全社会を覆ってきました。まず事故直後から収束作業を国と東電が独占した。福島の放射能安全キャンペーンと、11年夏から「除染」を開始した。12年から本格化した、ゼネコンが食い物にする箱物復興計画と、全国への「食べて応援」やがれき拡散。、関東と世界に向けた2020年東京五輪。14年からの避難区域解除。今年の住宅支援打ち切り、汚染土の全国拡散。全てがノンストップで進められました。

 また、今回の茨城大洗の被曝事故は、常に生身の人間が危険すぎる手作業をしていることをまたも明らかにしました。この極みが福島原発労働です。死を強制する労働です。しかしその全てを国・東電がコントロールし、実態が隠されてきました。だから最大の被害者である福島の住民、全国の日雇い労働者、外国人が担っています。自分がやれない労働を、誰かにやらせてはいけない、収束作業を必要とするなら、IAEA・日本政府・東電・経産省・三菱東芝日立…など、まず全ての事故責任者からやらせなければいけない。まさに逆さまの世界。福島原発の実態は、究極の差別と暴力で隠されているのです。

復興政策を支えてきた手法とは、一言で言えば、問答無用、です。まっとうな議論をしない、異論を受け付けない、事業の検証をしない、方針転換はありえない、という態度です。福島の「復興」をどうするかという問題は、きわめて重要な問題であるにもかかわらず、公的な場ではほとんど議論されないできたのです。
“「復興」の名のもとに、汚染被害も人的被害も隠されてしまいます。国策のために目をつぶれ、というわけです。かつては「中立性」だとか「両論併記」だとかいう建前をまもってきた新聞社も、こと「復興」政策に関しては、中立性の建前を捨てて一方的に「復興がんばろう」なのです。これは異常な事態です。”
(『3.11後の世代とともに 「復興」破たん後の未来構想を』矢部史郎、『人民新聞』2017年5月15日号)http://jimmin.com/2017/05/19/post-2826/

いま、「日本列島改造論」は、「国土強靭化」というスローガンに焼き直されて、ふたたび列島を覆い尽くしている。……このようなスローガンのもと、列島改造論を再現させたかのように、列島には公共事業がばらまかれる。東北の被災地もまた、現代版土建国家の標的とされた土地のひとつだ。放射能からの避難指示解除が進められようとしている福島県大熊町では、総事業費約31億円をかけた町役場新庁舎を建設するのだという。この事業によって真っ先に利益を得るのが土木建設資本であることは、間違いない。
 なによりこうしたインフラは、いったん建設されてしまえば「既成事実」と化してしまう。莫大な資金を投じて新庁舎を建設してしまえば、それを空っぽのままにするわけにはいかなくなる。新庁舎が完成したあかつきには――このとき土木建設資本はすでに十分な利益を懐に入れているわけだが――投ぜられた資金に見合った機能を発揮しつづけねばならないし、それに見合った地域社会と経済がなければならないし、それに見合った住民人口を確保しなければならない。
 こうして既成事実は、次から次へと折り重ねられていく。インフラの建設を正当化するために、がむしゃらにでも住民の「帰還」が強いられることにもなろう。自主避難に対する住宅提供資金を打ち切り、あろうことか避難を「自己責任」と言い放った大臣の逆切れは、まごうことなき土建国家の本音である。
(原口剛『「ネオリベラリズム土建国家」の正体と「生」の収奪』人民新聞2017年5月5日号。http://jimmin.com/2017/05/12/post-2713/

そして、復興庁は2020年に「解散」が決まっています。それまでに公的避難者と避難区域をゼロにし、天皇の代替わりも済ませる。事故は完全に終わったと五輪で国内と世界中を「一致」させることがプログラミングされています。

 東日本の住民と汚染を忘れている人々には、今、プログラムが全くありません。政府にどのように対抗し、自分と人々の命をどのようの守るかというプログラムが、ない。誰もが昨日と同じことを続けています。確実に迫る大量虐殺にどのように対処するか、特に社会運動は全力で話し合わなければならない。多くの民衆とともに避難をしなければならない。残っているなら、いつまでに避難をするか、それまでに何を成し遂げるのかを逆算して決めなければならない。東日本や、汚染物質を受け入れる人々は、いま時間の止まったまどろみの中にいることで、生の未来から死へと退行しています。それが政府による大量虐殺を許しています。今この国で最も大きく、最も手付かずの問題が、3.11復興政策への批判と、避難の準備・実行です。
 
 

“東電公害事件は、日本、ロシア、北米に放射性物質を拡散させた。日本だけに限定しても、放射性降下物の被害で4千万人、物品を通じた二次拡散で1億3千万人の人口を呑み込む大規模公害事件である。
 この事態に際して、日本政府は放射線防護対策を放棄した。人々に汚染被害の受忍を要求する被曝受忍政策にでたのである。日本に暮らす人々は、被曝防護か被曝受忍かをめぐって分裂した。防護派は東日本から退避・移住し、放射性物質の二次拡散を監視している。たいして受忍派は、汚染被害を忘れようとしている。こうした大きな分裂を背景にして、被曝を受忍させる権力とその翼賛が形成されている。忘却、無関心、権威主義、議論のはぐらかし、結論の先延ばしが、生活の一般的規則として上昇する。
 シジフォスは、ギリシャ神話に描かれた永遠の囚人である。ゼウスの怒りを買ったシジフォスは、山上に大きな岩を運びあげる作業を課せられる。この作業に終わりはなく、彼はこの無益な仕事を永遠に繰り返さなくてはならない。
 汚染地域に生きることは、シジフォスの時間を生きることだ。除去できない汚染のなかで、「復興」という掛け声が繰り返される。具体性を欠いた空論が、具体性を欠いているがゆえに、あきれるほど自由に喧伝されている。人々に課せられた「復興」は本当に実現可能なのか、「復興」の最終目標はどこか、そもそも誰の何のための「復興」なのか、詰めきれていない問題が山積している。それらがなにも明確にされないまま、ただ国民的団結が要求されているのである。
 解決可能な問題を先延ばしにし、出口のない偽の課題に向かわせているのは、政府の被曝受忍政策とそれへの翼賛である。東京は被曝を受忍するシジフォスたちの都市になった。
 ……このとき、関東・首都圏の被災と汚染は、その被害規模の大きさにもかかわらず、いや被害が甚大であるからこそ、人々の視線から排除されることになるだろう。東京は、自分自身を襲った現実ではなく、どこか別の地域の「現実」に眼差しを向けるよう誘導されている。
人々は自分の身に起きている現実を語るのではなく、「福島現地」で見てきたものを語るよう誘導されている。”
矢部史郎+山の手緑『シジフォスたちの陶酔:「Project FUKUSHIMA!」を批判する』)http://piratecom.blogspot.jp/2014/03/blog-post_13.html

私たちに欠けているのは、構想力です。「復興」政策破たん後の社会を構想すること。「復興」政策が破たんして日本社会がどうにもならなくなった先に、私たちは、「復興がんばろう」ではない別のやりかたで、社会を再構成しなければならない。そのときに、どのような人間が、どのようなやりかたで、どのような社会をつくっていくのか、というビジョンです。”(矢部史郎人民新聞・同上)


 東日本の住民も、避難者も、復興相の「自己責任」発言を大きなきっかけにしなければいけない。東日本で普通に暮らしているつもりでも、巨大な棄民政策の犠牲にされていること。そこから脱出した避難者が、押しつぶされていること。残る住民と避難者がますます分断され、争わされ、または互いに無関心にさせられていること。これらに気づき、声を上げるのです。全国の避難者が避難先で大集合して声を上げる。関東・東北ではまず「避難させろ」と政府に一大要求行動を起こし、同時にみんなで実行するのです。http://www.gowest-comewest.net/statement/20170404imamura.html

再び書きます。これら全てを踏まえれば、結論は「東日本からの総撤退、集団移住。私たち避難者は原発=核=現在の世界構造を変える生き証人になること。最後に残る『収束作業を誰がやるのか』という問題は、まず全ての事故責任者から最初にやらせること。」になります。それは可能だし、こうした具体的実践があります。http://jimmin.com/2017/06/02/post-3076/

次回、それをまとめていきます。