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雑誌『インパクション』168号「フランス社会運動の新しい展開」、重光哲明。今年に入り巨大化するフランスのゼネスト反戦デモがどう作られているか何が起きてるのか、超面白い! 参考になるよ!

“今年の一月二九日に、フランスでは八組合(政府と交渉権持つ歴史的五大労働組合と左派組合連帯、教員組合、学生組合)による第一波全国統一ストライキが実施された。全国各地約二〇〇ヶ所で大規模なデモも組織され、主催者の発表では、デモ参加者は二〇〇万人以上にのぼった。パリのデモでは、参加者自身も予想以上の数に驚き、早めにやってきたカーニバルのようなお祭りの雰囲気だった。”

“このストライキには、久しぶりに、穏健派から左翼までのあらゆる傾向の政治政党、組合が漏れずに参加した。”

“また八大組合の呼びかけに応じて、各地では、地域の大学生や、高校生、停年退職者や失業者などさまざまな社会階層や職種の人々が参加した。地域社会団体、アソシエーションも組合の呼びかけに応じ、年金生活者、ハンディキャップ、サンパピエ(非正規滞在外国人労働者)、住宅問題、エコロジスト、フェミニストなど広範にデモに合流した。このことは、この日のストとデモが現サルコジ政権の政治路線全体への広範な不安、怒り、抗議の表現が合流する場になったことを示している。”

“フランスの中央山塊コレーズ地方のタルナックという僻地の山村で、昨年11月11日に、「ウルトラ左翼」、「アナルコ・アウトノミスト」とレッテルをはられ、若者グループの19名が、突然大メディアのカメラと取材陣を従えた、覆面をしたテロ対策特殊部隊に急襲され、逮捕されるという事件おきた。”

“……何をしでかすかわからない若者グループの行動エネルギーと、学生運動、若手組合運動の連携接合による、社会的政治的運動のダイナミズムの飛躍的高揚をとりわけサルコジは恐れているのである。……この「タルナック」グループに対しては、フランス各地だけでなく海外でも支援委員会がつくられ、救援署名活動には、ジョルジョ・アガンベン、ジャン・リュック・ナンシー、アラン・バディウ、ジャック・ランシエールジュディス・バトラーなど広範な知識人グループがかかわっている。”

世界金融危機以降、「タルナック」事件の例に見られる権力の恫喝や弾圧強化に対抗して、果敢に反撃の口火を切ったのは、やはり、若者たちの運動だった。昨年九月の新学期から再度始まった、教員大幅減員計画に反対する高校生、中学生、教員、父兄、地域住民を巻き込んだ運動である。……その後も毎年高校生の運動は、学生運動と連携して繰り返され、新しい活動家がそのたびに再生産され、学生運動や、労働組合運動、左翼党派に若いエネルギーと創造性を提供し続けている。”

“今回の世界金融危機以降、欧州では、ギリシャのようにネオリベラル経済政策をより強力に進めた国で経済危機が激化し、バルト三国とりわけリトアニアでの街頭デモや暴動やスペイン、ポルトガル、イタリア、アイルランド、イギリスなどで社会運動がラディカル化している。”

“年末から一月半ばまでは、イスラエルのガザ攻撃に対して、左派勢力の政治党派や人権団体のよびかけによるパレスチナ支援連帯デモが、近年になく全国各地で爆発的に盛り上がった。……ガザ住民が受けている悲惨な状況と自分たちの日常生活で感じている不正義不公正を重ねあわせ、パレスチナの抵抗(レジスタンス)に共感をよせた、普段のデモでは見られない郊外の移民系を中心とする住民、若者たちが大挙して参加し、共同の闘いの場が形成され連帯の行動の輪が広がった。”

“……発炎筒、打ち上げ花火、サウンド、扮装、創意あふれるプラカードや横断幕で埋め尽くされ解放区のようになった。勾留者が収監されているサンテ刑務所への分岐点には重装備の機動隊、放水車や装甲車の治安部隊によるバリケードがつくられ、デモ隊の接近を阻止したが、拘留者に連帯するため、打ち上げ花火の水平撃ちの爆音やボリュームを上げたラウドスピーカーによるアジテーション、機動隊との小競り合いで一時は戦場のようになった。この映像も、ネットで同時放映された。”

“今回の無期限ゼネストの成功は、LKP組織の、不安定で、小規模で、柔軟で、つかみがたい、ハイブリッドな性格にあるようだ。……従来の組合や政治政党だけでなく、四八の大小さまざまな構成員でなる共闘組織だから、当然内部にそれぞれの政治的社会的立場の多様性と異種混交、分裂、矛盾を抱えている。……しかしLKPは構成員の意見の相違を尊重し、組織構成員の徹底した直接民主主義的討議を通して逆に弱さを武器に変えた。当面の共同目標を決定し、対外的には一致した要求に基づいて、指導部で勝手にボス交をするエリート主義を排し、そのつど底辺にはかり住民の広範な支持を汲み取りながら、最後まで一糸乱れず貫き通すことに成功したのである。”

“だからこそ、その状況をはねのけて、最も選択肢が少ないはずの、矛盾が集中している若年層や底辺の低所得者層、郊外、地方、周縁過疎の地域から、受身ではなく意識的で、横断的で多様で、創造的でかつ攻撃的な運動形態が噴出してきたことは貴重である”

“殻に閉じこもり、過度の個人主義とほかの世代から批判されてきたフランスの若者たちは、既成の体制の枠を突き破って、あふれ出るエネルギーと、底辺からの横断的で開かれた集団的な行動で、社会の力関係を変え、不平等と支配の構造を廃絶する、もっと違ったさまざまな世界の実現を夢見ている。”