秋葉原フィールドワーク&タブー無しトリプルトーク:「おたく・音楽・ファッション・資本主義」:パート4

パート1は http://d.hatena.ne.jp/Ryota1981/20050113
パート2は http://d.hatena.ne.jp/Ryota1981/20050114
パート3は http://d.hatena.ne.jp/Ryota1981/20050115

●さあ、どうやって生きていくか?

ナイン:若いコたちが等身大だと思い楽しんでいるカルチャーの裏で、どれだけ莫大な金と人力が動いているかという点が把握出来ればいいと思うんだ。でも、普段はなかなかそれがわからない。

Waterr:やっぱり小学生くらいからある作文の授業が元凶じゃないかと思うんだよね。

キール:あれはウザかったね、書くもの無いんだよね。

ナイン:ああいうのは「感受性合戦」だと思うんだよね。

キール:あれを2行で終わらせたら、普通に殴られたんだよ。

Waterr&ナイン:(爆笑)

ナイン:「お前もっと色んな事を感じていたんだろ? 思い出せ」みたいなものかな?(笑)

Waterr:コワイなー(笑)

キール: その反動で高校のときは、いかに作文を短く終わらせるかを頑張ってたなあ、高校はそこまで五月蝿くなかったから。
Waterr:私生活を記述できることこそ感受性が豊かであり、人間性が豊かであることの証だというメッセージを小学校から一面的に教え込んでいて、それによって、例えば原宿の「楽しかった一日」(あるいは「辛かった一日」)の背後にどういう社会的・経済的な文脈があるのかなどに目が向かないようになっている。自分達が手にしている「楽しさ」や「辛さ」はそれが消費によって成り立っている以上は単に「内面」から来るだけでは決してないにも関わらず。

ナイン:そうそう。最近話しているのは、「ブログ問題」と言って、日本にあるブログを見ていてあまり面白くないなあと思う点は、「自分らしさ」というモノが型にはまった内面の吐露のようになっている事が多いからなんだ。さっき食べていたケーキをケータイで撮影しようか?と皮肉で言っていたでしょ、あれはそういうことをやって写真を載せるブログが多すぎるということなんだよ。

Waterr:一日の流れを延々と記述して、自己をプロデュースしているというかさ…。

ナイン:そのケーキにしても、居酒屋での交流にしても、結局カネを使うことと切り離せないからね。でもそのことをあまり意識しなくてもいいような、空気のようになっている気がするんだ。

Waterr:それで「今日はこの店に行ってきました」と、その店にリンクまで張ってあるからね。「なんで営業までしてるんかな?」と(笑)

ナイン:カネの「空気化」だね。

Waterr:でも、そういう風に有名なケーキを食べにいくなり居酒屋で交流することなりが社会との重要な接点になっていると思うよ。多くのひとにとっての街の地図は有名店の分布によってイメージされている。

ナイン:秋葉原もある意味そうかもしれない。ただまだ救いがあるのはアナーキーな面が残っているからなんだけど、それでもカネを使わなければいられないし。道で何か始められないのかな、とさっき歩きながら思っていたんだけどさ。そういう手段のイメージを分かりやすい形で出せるといいんだよね。「こういうやり方もあるんじゃない?」と。

Waterr:あとは、自分自身がやって「こういうこともあるんだ」と証明する。やる前から「やれない、やれない」と嘆いているから、「実際やれるんですよ、こういうのも」と。俺はとにかくそれをやるしかないと思っている。具体的には、メジャーとは関係の無いやり方で音楽はやれるんだと。後は、こういうことを言っている俺がどうやって生活の糧を得るかという問題だな(笑)

ナイン:同じく(笑)

Waterr:結局そこで二重生活になったりするとよろしくない。例えばドイツなんかに行って俺が言っているような生活スタイルをするのはそんなに難しくない。仕事しないで生きることがそんなに日本ほど難しくはない。あとは世間がそういう人に対してバッシングをしない。日本は仕事をしないということが徹底した「悪」になるじゃない。「仕事もしない奴に何ができるんだ」となるから。

ナイン:これからはフリーターバッシングが収まってくるだろうとは思うんだよね。フリーターや派遣社員は今の産業構造の中で不可欠なものになってきていると思うし、良くも悪くも。

Waterr:「仕事をしている」ということの枠を広げるということかな。

ナイン:そうだね、そこには何もかもが「マジメな労働」に取り込まれていく可能性もあるんだろうけど。で、僕らよりさらに若い中学生くらいの子たちがさ、色々と自分たちでやり始めたら面白いんだろうなと思う。10代だったらまだまだ先はあるわけだから。職の事を考えずに、親のカネで食いつつ、自分たちの道をつくっていくことが出来るかも知れない。音楽でも、ファッションでも、おたく系でも、どういうジャンルでも。

Waterr:「二重生活」は嫌だし、メジャーになれればハッピーみたいなのも嫌だというタイプにとっては、どうやって好きなことばかりやりながら生活をしていくかが一番具体的な問題ですな。その場合、なんらかの共同生活を複数で助け合いながらやっていかなければ無理だよね。こういうのには今、多くの人が興味を示しているよね。

ナイン:何かの雑誌に載っていたなんだけど、古い民家を使って今までの家族形態とは違う共同生活をしている人たちの紹介があった。一歩間違えると昔のヒッピーのコミューンみたいになるんだけど。

Waterr:何か自然と現代風なアレンジが起こるよ。今はヒッピーみたいに理想を共有することではなくて、単純に生活すること自体が目的だから。

ナイン:そこで欠かせないのは流動性というか、どんどん人が入れ替わっていく事だと思う。

Waterr:最低限の生活は保障されたい。(笑)


●さあ、何をやっていくか?

キール:でも、そうやって考えて答えを導き出せるだけでも幸せだと思うんだよな。ほとんどの人は「世の中に不満があるなら自分を変えろ、それが嫌なら目を閉じ耳を閉じ口を塞いで孤独に生きる」となるしかないじゃない。

ナイン:日本は、不平等な社会のしくみに対する情報が圧倒的に少ないと思うのね。弱い立場の人までが「すべて自分次第」と思わされてしまう仕組み自体に対する情報が少ない。俺自身、自分から勉強しなければよく分からないままだった。俺が自分のブログでいつも考えているのはそのことで、自分自身の考えをクリアに主張するよりはとにかくある程度共通の現状認識をつくれるような話し合いをしたい。日本の場合、訳の分からないスローガンを作って、冷静な実体を覆い隠してしまうことが多い気がするんだよ。

キール:大体近代以前なんてそういうフリーターばかりだったんだから、江戸時代とかさ。それが近代になって列強と争っていかなければいけないからそういうスローガンめいたものを作って近代国家の国民にされちゃったんだよな。当時の時代が時代だったから、しかたないと言ってしまえば、そうなんだけど・・・。

ナイン:Waterrの言葉で言えば、「自分が何をやっているのかを理解する」ということかな。この日本社会の訳の分からない豊かさはどこから生まれてきたのか・・・。日本の場合、そういうことが省みられることがなくいつでも先へ先へと進んでいこうとするでしょ。それでいつの間にか政府主導のベンチャービジネスが出てきてしまう。「新しい時代へ行くぞ!」みたいな(笑)。

Waterr:それは大学の授業にしたってそうだもんな、どんどんシンクタンク化してきて、「政府に政策提言します」みたいな。

ナイン:何であんなに無邪気なんだろう?

Waterr:そう、「無邪気」なんだよ、「無邪気」すぎるんだよ(笑)

ナイン:それまでの歴史から途切れた所から忽然と現れて、「これからは未来へ」となる。

Waterr:アッパーで走り続けるみたいな。それに本当に乗り切れている人は別に苦労しないし良いかもしれなんだろうけど、かなり無理して笑顔でやっている人は相当キツイよ。笑顔の強要はやばい(笑)

ナイン:僕らと同世代の若い人たちって、そういう事を薄々感じているんじゃないかと思うんだけどね。

Waterr:でも結局は「強い自分を持つ」というものに回収されちゃうんだよな。

ナイン:そうかな、俺はそこまで誰もが「自分」というものを強く鍛えようとしているとは思えない。

Waterr:いや、強く鍛えようとしないにしても、「強い自分をもっているひとはスゴイ」みたいな感覚は誰にでもあるんじゃない?でも、「強い自分を持てば良い」というのは、無いモノねだりというか、色んな問題から目をつぶって、問いを終わらせるために、ポジティブな雰囲気だけを残すような言い方じゃないかな?

キール:考えない人間は動かせないし、強いからね。ネットゲームの話なんだけど、『ラグナロクオンライン』ってのがあるんだけど、そこの管理会社がまたクソでね、色々不祥事は起こすわ個人情報を漏らすわで、もう・・・。しかも「これをやるとネットゲームの寿命が来る」という不法行為のようなものがあるんだけど、それとも裏で結託しているんじゃないかという疑惑まで持たれている。ダメダメな管理会社なのに、「ああ、あそこならしょうがない」となっているんだよね。

Waterr:それは「権力問題」だなあ。「力ある者なら何をやっても許される」という。

キール:ネットゲームの社会でも、現実世界のお金と仮想世界のお金や装備を売り買いする「リアルマネートレード」というのがあって、それが大々的にやられてしまっているんだよ。それを「おかしいよ」と言っても、「だったら我慢しろ、嫌ならやめろ」としか言ってこないんだよ。

ナイン:それは労働条件の過酷なアルバイトの現場みたいだね。

キール:そうそうそう。だから俺はそういうのに絶望して、「あ、やっぱり考えない人間は動かせないな」って、その時本当に思ったよ。訴えかけても通じないから、馬鹿らしくなってネットゲームはやめたんだけどね。結局続けていたのも、仲間がいたからなのに。やめちゃって仲間と会わなくなったら、その存在がいかにちっぽけで、大したことない存在なんだと気付いたときの喪失感はすごかったよ。俺が今までつぎ込んできた時間とネットゲームをやるためのチケット代は何だったんだろうと。

ナイン:チケット代って、結構高いの?

キール:一ヶ月1500円。

ナイン:それが積み重なると結構するねえ。

キール:すげえ後悔したわ、何でこんなのをやっていたんだろうと……。

ナイン:中学生とかだと、ネットの使用方法はネットゲームというかオンラインゲームが
一番多いらしいね。

キール:そう、だから中には『BOT』という自動プログラムを使う。この『BOT』は手動ではなく自動で動かせて、ずっとアイテム集めやモンスター狩りができるんだ。それで手に入れたアイテムやゲーム内の通貨をRMTで売る。それでお金を手に入れて、そのお金でネットゲームのチケット代を払う。

Waterr&ナイン:はぁ〜、なるほどね・・・。

キール: しかもだよ、管理会社がソフトバンク系列の会社なんだけど、そのBOTを推奨するような記事を乗っけてるネットランナーって雑誌もソフトバンク系列の会社の出版物・・・。マッチポンプじゃねえかよと思って嫌になったよ。


●最後に大きな「第3世界」の問題

ナイン:「自閉する」というのは、どうしてもマッチポンプになってしまうということだと思うんだよね。日本国内というか、「消費」に自閉できる。そこで決定的に無視されているのは、東南アジアや中南米やアフリカといったいわゆる「第三世界」だと思う。そこで消費物の素材を確保したり、実際に現地の人を安い賃金で使って作らせているから。

キール:そうそう。

ナイン:モノを売っている企業や消費している人に「その素材、一体どこから輸入してきたの?」と言いたくなるし、自分自身が問われる問題でもある。これは様々なモノやカルチャーに当てはまるからなあ。

キール:その筋で言えば、おたくの人はファッションとかにあまり金を使わないから、当てはまるのは「パソコン」なんだよな。パソコンに使われている『レアメタル』とかダイヤって、生産地はアフリカじゃん? その利権のために何人が死んでいると思っているんだよと。そう言ったとしても、「そんなの関係ないよ」と言われてしまう。

ナイン:折りたたみ式携帯電話のパカパカさせる部分の部品もそうだよね。こういう資材を先進国が手に入れるための利権争いは、アフリカの、国名忘れちゃったけどドロドロの内戦をしている所の原因だもんね。

キール:そうそう。そういうドロドロの状況をプロデュースして、さらにドロドロ化させているのがフランスやアメリカや日本といった先進国でさ、そういう所で過激派とかテロリストが生みだされるんだよな。そのために彼らがテロを起こして、それを掃討するために戦争を起こしていく。ほんとクソッタレだと思うよ。

ナイン:今言ったようなことは、日本で比較的若い世代がやっている平和運動NGO活動でかなり言われていることなんだ。ただ自分的にそれだけじゃ物足りないと思うのは、この豊かな社会は実際にその中で消費している人々にとっても精神的に辛いことなのかもしれない、という視点もあった方がいいと思うんだ。「日本で消費をしている人たちは必ずしも幸せを感じていないかもしれない、にも関わらずこれだけ他国から搾取している」という捉え方。これが結びついたらいいと思うんだ。俺はこれが現状だろうと思っているよ。

キール:「あれだけ他国を犠牲にして得た物で貴方は何を得たんですか?」と。

ナイン:そうそう。

Waterr:犠牲を払って自分がハッピーなんじゃなくて、犠牲を払っているのだから自分もハッピーじゃないでしょう?ということだね。

キール:俺にとって、ネットゲームなんてまさにそうだったよ。あれだけの時間と犠牲を払って、得たものは大したものでは無かったからなあ・・・。

ナイン:しかもその下では、「貧しい国の人たちが延々と部品を作っていました」となっているもんね。そこがうまく結びつけられるといいと思うんだ。片方だけだと実体を捉えきれていないし、弱いと思うんだ。

★終わり。