6月の「反NHKデモ」の特徴

ネットでも話題になっていたNHKの「JAPANデビュー・アジアの一等国」に抗議するデモを去年6月、つまり最初のころに見てきた感想。ずっと下書きのままだったので出します。日本が台湾を植民地支配していたという番組に対し、「台湾は日本に感謝してる、事実を無視するNHKは中国共産党の手先だから解体せよ」という主張。一連の市民右翼ムーブメントの、爆発点だったから。何とかしていきましょう。

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見に行ってきました。参加者がどんどん増えている、右翼によるNHKへのデモを。あまりにひどかったけど行って良かった、近くで見て初めてわかることがたくさんありました。

内容:
■東京 6・20 NHKJAPANデビュー」に抗議する国民大行動・第3弾■
偏向・捏造した報道や番組を繰り返すNHKに怒りの声を!!
全国草莽は「草莽崛起」して渋谷へ!
デモの様子:http://www.youtube.com/watch?v=l6fux38uWQU
バスでNHK内に入ろうとするデモ参加者
http://www.youtube.com/watch?v=bt5ecqtfbOw
NHK構内に突入した前回5月30日:
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-771.html
■6月25日、8300人以上でNHKを集団提訴
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/

●1:ドキュメント●
11時から渋谷ハチ公前広場で街頭宣伝をやってたそうですが、
僕は14時前に代々木公園に着いたので出発前の集会からです。
代々木公園野外ステージの近く、歩道橋の手前にミニステージが作られ、デモの中心人物たちが次々登壇してデモの意義を
アピール。揺れる日の丸と緑の風船(台湾のイメージとのこと)。参加者は500人以上いる。
若者3割、男性9割/女性1割という印象です。
最後の中心人物が「前回のデモでNHKの受付が泣いてた、当たり前の罪だ」「NHK職員から私たちに『今内部はガタガタです、頑張ってください』という電話が来た」と嬉しそうに語るなど、自分達を有利にするためなら何でも材料にする手法や、それがエグくても許されるという意識が一貫しているなと思いました。

そしてデモコールの練習をした後、4列に並んで14時半にケヤキ並木を出発。隊列は3つでパンパンになっていたので、この時点で800〜900人はいたと思います。

歩き出してすぐNHK本社があり、入り口はガードマンが封鎖している。職員も出てきている。その前を隊列がゆっくり通過しながら「NHK解体」「粉砕」「反日」「ふざけるな」「日本から出てけ」「死ね」など、ありとあらゆる悪口が向けられる。警察は全く規制しないので、立ち止まったり門に掴みかかったり来たりやりたい放題。

僕はそれを見ながら一人で何ができるか考えて、白い紙に「あれは良い番組だった、私は応援してます、右翼の暴力的なデモに負けないでください」と書いてデモが通過して離れていった後に職員に見せてました。職員はうなずいたり、「ありがとう」と言われた(とはいえNHK
自体は必ずしも弱いとはいえない大きな組織なので、そこを叩くのが彼らのうまさだと思いました)。

デモはその後、シュプレヒコールを上げながらNHKのまわりをぐるっと一周するコース。後を追いかけると東西南北の入り口ごとに彼らはシュプレヒコールを高める。
そして代々木公園駅近くの公園で15時半ごろ解散し、彼らは次の予定や「ハチ公前からバスに乗り込んでいる人がいるかもしれませんよぉ〜」と笑顔で話す。この時点ではあまり意味がわからなかった。

そしてNHK入り口まで全員が徒歩を始める。ほとんどデモ行進。途中の正門では立ち止まってシュプレヒコールを繰り返した。
道路使用許可を取っている、と言っていたが警察に聞いたら「出ていない」と。まるで解放区のようだ。

そしてデモ隊はNHKの正面入り口へ。右翼の若者たちが渋谷駅からNHK構内への直通バスに乗り込み、入り口で止められている。その周りには多数のデモ参加者。他の乗客は全て降り、彼らのバスジャック状態、全員で「通せ、通せ」の大合唱。

特筆すべきはその理不尽さ、嫌らしさ。
「バス会社に謝れ」だの「金は払ってるんだぞ」だの「何でお客様を通せないんですかー」だの「バスの中が暑くて蒸し風呂になるぜ!」だの。
説明に来た職員の身体的な特徴をあげつらう。公共放送に対するお客様意識と相まって、子どもがダダをこねている状態。少しは自分達の
主張をきちっと話してみろと思います。

そうして1時間以上に渡って入り口前でシュプレヒコールを繰り広げ、主催者の判断でバスを降り、17時に終了。バスから出てきた若い奴らはヒーロー扱いでみんなとハイタッチ。
その後も代々木公園内や入り口で残った人々が抗議や打ち上げを続けていました。

●2:その特徴と対策●

1000人規模に広がったのはなぜか、感じたことをまとめます。

1:主張のキャッチーさ。
どんなに無茶苦茶な理由でも「NHK解体」は言いやすくて盛り上がりやすい。
相手に何を言われても「反日」「媚中」と言い返せば良いのも同じ。
不況で職が無い、モテないし社会に居場所がない、などから始まった自分たちの不安や不満をわかりやすく身近な対象に向けられる。
そこに向けてエネルギーを集中させ、ネット上や街頭でしつこくしつこく宣伝と抗議を繰り返している。
そうしてネット上から集まった若者〜中年と、古くから続けて来た年配者が結びついた印象。
わかりやすいものに多くの人が惹かれていくのはどこでもいつの時代でもあることだろう。
通りすがりの人も、ノリで「NHK解体」と言ったり話を聞いたりしていた。

2:お客様意識・被害者意識ゆえの高圧さ。
ここが彼らの最大のポイントであり批判すべき点。
「台湾は植民地統治ではない」→「彼らは私たち日本人に感謝したいはずだ」→「日本の公共放送であるNHKがそうでない番組を流し、公務員である警察が私たちを取り締まるとは何事か」 (これは彼らへの反対行動があった場合「警察はちゃんと左翼を逮捕せよ」になる)
→「視聴者である私たちに謝罪しろ」
こうして自分達の行いは絶対正しいものとなり、自己規制や内省が働かなくなる。
そしてNHKは相手が視聴者だから「お帰りください」としか言えない。
朝鮮総連でも毎日新聞でもカルデロン一家でも、彼らは絶対言い返してこない対象だけ相手にし続ける。
「NHKは台湾人に謝れ」という勝手な代弁・利用主義や、NHKの受付員など普通の個人に対する誹謗中傷や、バス突入時の子どもじみたイチャモンは、そこから生まれている。 (私たちが行動する際はこうした振る舞いをしないといったコードを設けている筈だし、権力には何をされるか分からない緊張感を持っている。「右翼も左翼も同じ」などと簡単に言う人はそれを知るべし)。
これは今の日本社会に根ざした文化的な特徴だと思う(注1)。

3:解放区の出現
彼らは街で思いっきり暴れて怒りを発散するお祭り騒ぎを初めて味わっている。
警察に規制されないし、相手は言い返してこないし、人数も多いから。
想像以上に彼らは楽しそうだった。これは広がってしまうだろう。

できることは・・・・
1:キャッチーな主張がどれだけ酷い主張か、それに基づいた運動がどれだけ危険か、きちんと人々に説明していく。
例:http://ikirukotowa.blog22.fc2.com/
2:
彼らの近くで、彼らがどんなに理不尽か反論する。
例えばNHK入り口の対角線上で、彼らや街の人に植民地統治の問題や彼らの振る舞いの独善性を きちんと説明する声が必要だと思った。
3:こちらの運動の方がより楽しく意味がある、と広げていく。
他者へのヘイトに基づいた閉じた解放区ではなく、こちらの方が楽しくて意味のある行動をどんどん開発して広めていくこと。

●最後に
ひとつの団体である「在特会」と、有象無象が集まったムーブメントである反NHKデモのようなものでは、向き合い方が違ってくるでしょう。後者の方が色々工夫が必要だと思います。
そして何より、攻撃されていて声が出せない当事者と、代弁主義でない形でつながり、その声を広げていく手助けをしていくこと。

これからもみんなで冷静に考えていきましょう。

(注1)イスラエル兵士の告白を描いた映画『沈黙を破る』で
イスラエル国民がパレスチナへの加害の事実やシステムを直視しない、すなわち鏡に写った自分たちの姿を見ようとしない代わりに、自分たち徴兵された者が最前線に立っている」 と言っていた。
この「鏡」が日本でもキーワードだろう。日本のアジアへの加害の歴史を見ることなく、自分の生活状況から生まれる不安を無関係な相手へ向け続ける。それは彼らが自分の姿を自分で見つめる「鏡」を使っていないからであり、だからこそどこまでも気軽に暴走する。インターネットも「鏡」が無いまま行動できるための道具になっている。